2024/12/21
『西川勝人 静寂の響き』 at DIC川村記念美術館
『西川勝人 静寂の響き』展
DIC川村記念美術館へ。
白で統一された部屋に静謐に配置される作品を辿ると、“中心”にむかって巡るクノッソスの迷宮に入り込む構造がなされていて、空間そのものもひとつの作品だった。
そしてこの展示においては空間だけでなく、時間も射しこむ光も作品の一部なのだと。
ラビリンスであればミノタウロスがいるのであろう場所に敷きつめられていた無数の花びら。
薔薇、百合、菊、デンファレ、トルコ桔梗、胡蝶蘭、カーネーション。
7種類の白い花。
会期の最初のころは純白だった色が、朽ちて黄金の色に。時を重ねることで輝く、花びらの色。
たくさんの美しい貝殻からできた翼。空を飛ぶためのものであるそれが、海から生まれたものからつくられていること。
クリスタルガラスのフィザリス(鬼灯)に窓辺からの光が反射し、眩しくて目を細めたときの気持ち。
自分でも説明がつかないままに、涙がこぼれそうだった。
尊いものをまえにしたときにあらわれる余白を自分のなかに迎え入れるような。
展示のメインヴィジュアルである「根」という作品を目にしたときから、うかがわなければと無性に自身のなかから急き立てられるものを感じていたけれど、叶ってほんとうによかった。
正確に記憶できていないけれど、西川勝人をあらわす言葉として光(それと対をなす影、闇)、自然、教会、ラビリンスがある、みたいな説明を最後に読んで、その文章が作品(展示作品のほか、空間、時間、自然光と陰影、水、そしておそらくは香りも)として具現されていることが深く感じられて、とても素晴らしかったです。
“静寂の響き”からのおみやげ。
西川勝人の世界観からイメージして植物やクリスタルガラスみたいな氷砂糖でつくられたキャンディス。
透明な白と黄金色のものとふたつ種類があり、“迷宮”の中心に敷きつめられた白い花、時の経過とともに金色に変化していたあの花びらたちが、わたしのなかで連想されて。
ガラス壜のなかの森。
白い幻影のように水面を渡っていた白鳥さんに、もう一羽近づいてゆくことに気づいたとき空気が薄く柔らかな薔薇色を帯びはじめて、それは束の間のことだったけれど、花びらのお裾分けをいただくような気持ちで二羽ならんで泳いでゆく白い後姿を見守った。
水の匂い、気配。水のそばにいると神経がいつもより鋭敏になり、研ぎ澄まされるのを感じる。“静寂の響き”も水の匂いと気配が水底から漂っている展示だった。
いつかの“ラビリンス”の記憶。
「入口と出口はおなじ場所にある」という言葉が、ずっと心のなかに残っている。