ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』作品社
ある彼女とお互いに本を贈りあう遊びで、彼女のための選書の一冊に、この書物を選んだ。
翻訳の出版当時、いまから10年まえに読んだとき、粉雪みたいな小説だと感じたことを覚えている。
ただ宙を仰ぎながら静かに降る雪を見つめている。
次第にそれが積もり、自分のからだがその雪によって冷えてゆくのもかまわずに天を見つめつづけ、そのうちそれは冷たさではなく不思議なぬくもりを帯びはじめ、温かな感触に変わるような、雪に触れたときそのものの読書体験。
どのようなひとがこの物語を現実に顕したのか調べたら、著者はすでに故人であり、それが1960年に書かれたものであったことを知った。
彼女に選書するとき、ほかの本は読み返したけれど、『ストーナー』のあのすべてが漂白される雪の感触をそのままにしておきたくて、あえて再読しなかった。
刊行からずいぶん時間が経っているので、出版社に在庫があるかしらと感じた懸念は懸念のまま終わり、この書物が静かな熱をもって密やかに確実に受け継がれ愛されているのだと再発見できたこと、とても嬉しかった。
雪の冷たさと温かさは、そこに内包された悲しみと愛のおおきさ。