家の近くにあるおいしいケーキやさんがもうすぐ移転してしまうのだという話を聞いた夜、自分でもびっくりするくらい落ち込んで、近年そういうこともなかったから、そういう自身の心の動きをとても興味深く感じた。
家族の誕生日も、いつも足を運んでくださるお客さまが誕生月のときのそれぞれのバースデーケーキも、記念の日も特別な日も、ここ数年ケーキはみんなあのお店で選んでいた。
種類も相手にカカオ形のショコラのケーキ、ショートケーキ、桃のタルト、モンブラン、モンテリマール、ピスタチオやマスカルポーネのケーキ、季節のフルーツがあしらわれたミルフィーユ、それぞれのイメージにあったもの、それぞれが好みそうなものを、四季とともに移り変わってゆく品揃えのなかから選んできた。
その日はキャロットケーキを。
レーズンはまったく好きではないのに、キャロットケーキは好きで、そのなかに入っているならレーズンも食べられるという不思議。
いつもあってくれるのがあたりまえだと思って、“またいつか”という言葉に託しても、“いつか”がかならずあってくれるわけではない苦みを、甘さとともに呑み込んだ。
ずっと意識していることではあるけど、行きたい場所には足を運んで、存在してくれて嬉しい場所には存在してくれてありがとう、とさらにつたえていこう。
場所にかぎらず。
近年とみにそうすることの大事さを折に触れて感じさせられる。