自然のなかにいる鹿と出逢う機会があったので、今月のはじめに観た『鹿の国』という映画のことも記録として残しておこうと思いました。
誰にむけても「おすすめ」とつたえられる内容とはいえず、けれどもその芯にあるものを「必要だ」と感じられるかたが、直感をもってそっとスクリーンの暗闇に息を潜め、そこにある秘されたものを汲みとり、それが自身のなかの謎と響きあって、高らかに澄んだ歌をうたう、そういう映画だった。
春の兆し、一滴の躍動の血。
脈々と受け継がれた幾重にも枝分かれする記憶を宿す桜の古樹の幹に梢にその声は震動し、花びらが舞う。
大地に深く根ざした生命の柱。
散る花びらは、聳える樹々の歌。
必要としているひとのてのひらのなかに、それは落ちてくる。
少なくともわたしは、上映が開始されてまだそんなに経っていないと思っていたときにエンドロールが流れてきて、もう終わり? もう98分が過ぎたの? と驚いてしまった。
とても集中して入り込んでいたことのあかし。
わたしにはとても必要だった。そしてそれは、“いま”でなくてはならなかった。