森の奥深くの澄んだ空気。
境界としてさだめられた樹の柱の頂にあった蝉の抜け殻。
それを見つめながら、「ここにも死と再生が」という誰かの声を聴いたこと。
不意に黒い揚羽蝶がわたしの目のまえにやってきて、踊りはじめた。
「インフィニティ」と誰かの声がすこし驚きをふくんで弾む。
おおきく弧を描く祝福の舞。それを誰かがフィルムにおさめようとした瞬間、飛び去っていった蝶を視線で追いかけて見失う。
「そういうことじゃないっていってる。あなただけに見てほしかったのね」
記憶のなかにだけ残る風景。
「わたし、インフィニティの指輪をしてるの」といって、左手のひとさし指を差しだしてみせる。
この旅の数日まえに、どうしてもお迎えしなければと感じて衝動的にもとめたリング。おそらく旅にもっていきなさいということなのだろうと思ってそうしたこと。
∞Infinity∞
このシンボルは、今回の旅のなんらかの象徴だったのかもしれない。
あの黒い蝶はいまも、銀の指輪のなかにいてくれる。