2023/07/29
羽衣
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夢。白い町の忘れられたような森で、天女の羽衣みたいな布を手に踊ってる女性。
二十歳を過ぎて間もない年頃に見えるけれど、見かけどおりの年齢とはかぎらない。
「あなたはこの町で、この場所でなにをしてるの」と問うと、彼女は「なにも。ただ風になってるの」といった。
「あなたはなにをするために生まれたの」と問うと「おおきな嵐を呼ぶため」といった。
「それではわたしはどうして生まれたの」とわたしがわたしのことを問いかけると、彼女はこちらに一瞥をあて、掌のひらをうえにして両手を差しだした。
その掌のひらのうえに蓮の花が浮かんだ。
クリスタルガラスみたいに透明な蓮の花。それが輝いて光の反射で虹色に光った。
そして彼女はひとこと落ち着いた声で「わかってるでしょ」といった。
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いつか見た夢のこと。日付を確認すると2020年1月9日だった。
聖なる泉の地でわたしと“外”との境界をつくってくれたベール。「このなかから選んで」とつたえられ、躊躇うことなく純白のそれを手にとったのは、それがわたしの目にはサラスヴァティの羽衣のように映ったからだった。
サラスヴァティは白鳥と孔雀の女王。うつくしい鳥たちの、その羽根がこぼれる舞に彼女はいる。
白鳥の白。その輝く羽ばたきを象徴するベールで、彼女は水の流れを呼ぶ。
かの女神を感じる清らの色。それ以外、そのときのわたしの心にはなかった。けれどもあれから数日が過ぎたいま、不意に記憶から呼び起こされた、あのいつか見た夢のなかの“天女”とおなじ“羽衣”を、という無意識が働いたのかもしれない(――あれはサラスヴァティだったのだろうか)と感じたりもする。
余談として。
緑、青、紫の色が混ざりあった、まさに「孔雀色」としかいいようのない色のベールを手にし、大切に纏っていたひとにそういったら、「森のイメージだったの」という答えが返ってきた。森と白鳥と孔雀と泉と、そこに溶けあういつかの夢。