清らかな心でいつも世界を見つめたいと祈るかたから、海辺でご自身が拾われた桜貝を贈っていただいたのは、もう何年もまえのこと。
そこにこめられた想いとともに大切にするあまり、おさめられた箱と一緒にしまいこんで行方がわからなくなってしまっていた貝殻たちが、さきの新月の翌日に還ってきた。
このタイミングで。
いつからか自分が物語より物語らしい現実を生きているなと感じているけれど、世界に散らばるうつくしくてやさしいものをとおして、あらためてわたしに幾度もそのことを囁きかけてくれる。
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桜のはなびらは
風とともに
天と地のあわいを
舞いながら
のびやかに流れてゆく
そしてときに
水に沈んだはなびらは
桜貝となって砂浜に流れ
土に姿をあらわし
はなびらと貝の名残を
その断片に宿した
翅を手にいれ蝶となり
やわらかな火のごとく
空へと羽ばたいてゆく
“そんなことがあるわけがない”
そう思うことでも起こりうる
“流される”ではなく“流れる”
どんなことでも起こりうると
みずからに ゆるすということ
そしてそれも
自分自身のなかに揺るぎない
おおきな樹が育まれたからこそ
できること
(――『片翅の泉』に寄せた、まぼろしの28の翅のひとつから。)