2026/09/08
佐喜多萬
夏の記録。
さきたま史跡の博物館。
器、鏡、勾玉、剣、埴輪などの古代の埋葬者に捧げられた出土品。
いにしえの記憶を宿し、さだめられた“持ち主”によってのみ力を発動する、神具であり呪具でもあるもの。
そういったものに昔から惹かれ、年々それが深まるのを感じる。
その形や象徴にこめられたもの。
畏怖、秘されたものごと。
所蔵の国宝、金錯銘鉄剣は、以前訪れたときはレプリカ展示だったので、この目で拝見するのははじめて。
剣には115文字の銘文が彫られ、その文字はすべて金で刻まれている。
そこに浮かびあがる記録によって、伝説と現在を結びつける剣。
不意に博物館の建造物のなかに、ひっそりと配置された鏡文字を発見する。
石に刻まれた文字が、柱の“鏡”に映しだされると、「佐喜多萬」となる。
さきたま。
埼玉の県名の由来となったその響きは、
古事記に登場する女神「前玉比売命(さきたまひめのみこと)」のことであり、万葉集に詠まれた歌のことでもあると聞いたことがある。
――佐喜多萬(埼玉)の 津に居る船の 風をいたみ 綱は絶ゆとも 言な絶えそね
そして「さきたま」は「幸魂」でもあり、調べてみたら前玉比売命も、幸福と宝玉の女神であるとのことだった。
古墳のうえにつくられた前玉神社のご祭神でもあり、この日うかがうと、境内では数多の風鈴が風に揺れ、透きとおる澄んだ音で迎えてくれた。
頭上でいっせいに奏でられる音。
夏の記憶。
