2024/03/31
紅玉
「ルビーは愛を閉じこめた宝石だと、わたしは思う。」からはじまる言葉を綴って、青井さんのコラージュ作品と共作した、いつかの“りんごまつり”の展示のときから、ずっと印象的に心に棲みつづけてきたこのスノウホワイト、お迎えすることが叶いました。
ルビーは愛を閉じこめた宝石だと、わたしは思う。
血が燃えたつ情熱の一瞬が、永遠の眠りのように結晶化された、冷ややかに透きとおる鉱物であると。
あの女が差しだした林檎を見たとき、わたしはそんなことを考えていた。
そして魔にみちびかれるみたいに、わたしはあの赤く美しいものを受けとり、気がつけばひとくち齧っていた。
ルビーがわたしにとって特別なのは、それが生まれるまえから自分に望まれていた希望と烙印だったから。
雪のようにしろく、黒檀のようにくろく、血のようにあかい子。
その役割をご破算にするために、わたしは林檎に血を吸いあげられて、いま、永い微睡みのなかにいるのかしら。
待っているの。
蕾のごとく閉じたこの色褪せたくちびるが、紅い花となってふたたび目覚める日のおとずれを。
わたしの心をルビーの色に染めて、血がかよっていることを、思いださせてくれるひとを。
*
瞼の裏側にいまも、鮮明な赤。
あの女のくちびるの色。
奇妙にやさしい声でわたしに話しかけるのに、けっしてわたしの名を呼ぶことのない女。
わたしを愛しているふりをして、王を愛しているふりをして、そして自分を愛しているふりをして、偽りばかり虚しく言葉にしているうちに、おのれの本心に目隠しした憐れなひとのあのくちびるの色を、いつか薔薇のようだと誰かがいったわ。
血のように赤いブラッドローズ。
それはわたしという存在に刻まれていた、印だったはずなのに。
血のようにあかい子。
だからわたしはしろく、ひたすらに穢れないことを願われて、雪のごとき少女として育った。
あの女のくちびるはきっと、わたしの血を吸いあげていたんだわ。
わたしはわたしを護るために、だからもう、眠りに就くしかなかった。
わたしのなかの「血」が復活する日を、待っているの。
それはたぶん、くちづけからやってくる。わたしに愛を教えてくれる、わたしがルビーを捧げる、そのひとの。
*
スノウホワイトの独白、2018年の秋に草舟あんとす号さんで開催された「りんごまつり」に参加したときに綴った文章の一部です。後半の「瞼の裏側にいまも、鮮明な赤」からはじまる部分は展示終了後に「つづき」を思いついて遊びで記したもの。懐かしい記憶として。
この白雪姫、tegamiyaさんの林檎のオーナメントとともに飾りたいなと感じたので、そうしています。
目覚めは春の訪れとともに。